【外国映画の中のインド】イギリスTVドラマ「Curry & Chips」|パキスタン系移民が主人公の打ち切り問題作

外国映画の中のインドでは、インドではなく海外で製作された映画の中でインドに関するものが登場したり、言及されている映画などに出会った時に書いています。(たまにインドではなくパキスタンなどの南アジア諸国も含みます。)

(1969年/イギリス/英語)

  • 原題:Curry and Chips
  • 監督:キース・ベケット
  • 脚本:ジョニー・スペイト
  • 出演:スパイク・ミリガン
  • 制作局:London Weekend Television
  • 放送局:IVT

#予告編

あらすじ

アイルランド人の両親の元、パキスタンで生まれたパキスタン人ケヴィン・オグラディは、イギリスのとあるいたずらグッズ工場の面接にやってくる。工場にはあからさまなレイシストもいたが、幸い工場長はリベラルで、就業が決まる。ケヴィンは、工場のメンバーと仕事や生活を共にする中で、様々な文化的相違や差別を経験することになる。

イギリスTVドラマ「Curry & Chips」

Curry & Chips」は1969年に放映されたイギリスのTVドラマシリーズです。いたずらグッズ工場を舞台に、パキスタン系移民のケヴィンと会社の仲間たちの人種差別的なジョークやエピソードが盛り込まれたシチュエーション・コメディです。あからさまな人種差別表現が問題になり、1シリーズ6話のみで打ち切りになりました。

本作品は、打ち切りになったもののDVD発売はされており、また外国のウェブサイトでは観ることができます。私は字幕なしで観たため(英語はそこまで得意ではない)100%の意味を理解はできていませんが、6エピソードすべてを観ました。作中に出てきたのは、こんな感じ・・・

●主人公はアイルランド人の両親の元に生まれたパキスタン人、Rの強い独特の発音。

●ランチタイム中に、食堂で皆と同じものを食べ、肉が入っていることに驚く主人公(ここで笑うポイント)

●同僚とパブに行き、ギネスビールを出されると、私が有色人種だからですか?という主人公(ここで笑うポイント)

 

笑うポイントがやっぱり謎。当時のイギリス人にはおもしろく感じられた?

またこの作品に出てくる言葉「パキ-パディ」は、人種差別用語であるパキ(南アジア系移民の差別呼称)とパディ(アイルランド系移民の差別呼称)から作られた造語。こんなにも嫌な響きの言葉を使うなんて、今でこそ信じられません。

このドラマの中には、“人種差別”——すごく良く言い換えれば、異なる文化や人種に対しての視点をコメディに昇華させようと試みたものですが、もちろん制作しているのは宗主国であったイギリス人なわけで、そもそもそういった移民を主人公に据えること、この作品のコンセプトがやはり他人種を卑下しているとしか思えない残念な作品でした…。

イギリスと移民

“大英帝国”として多くの国を植民地として統率してきたイギリスは移民との付き合い方に、いつも頭を悩ませてきました。そして、EUを脱退すると決めたことからも、イギリスは“イギリス人ではない”移民に対しての抵抗が少なからずあるというのは、想像することができるでしょう。

イギリスに移民が大量に増えたのは1800年代、アイルランドからの移民でした。イギリスとアイルランドのお互いに嫌悪する関係は現代にも垣間見られ、それほど関係はよくありません。当時からイギリスでは、アイルランド人は差別の対象でした。パディというアイルランド人に対する差別呼称も生まれました。

次に移民が増えたのは世界大戦終戦後です。50年代のイギリスでは労働者不足が深刻となり、その解決方法として、イギリスのコモンウェルス諸国(=かつての植民地国、イギリス連邦国)から移民を受け入れました。その時の主な移民は、西インド諸島(ジャマイカなど)南アジア諸国(インド、パキスタン、バングラディシュなど)からでした。

60年代になると、不景気になり、低賃金でイギリス人の仕事を奪う移民に対して冷たい態度をとる者も出てきました。(全く、自分たちの都合で呼び寄せといてひどいわ!)

もちろん、そこにはこのドラマでも取り上げたように、自分たちの文化との違いなどに対する違和感もあったでしょう。そのような時代背景があり本作が生まれました。

イギリスとアイルランド

この作品がややこしいのは、主人公をパキスタンからの移民だけでなく、アイルランドとパキスタンの混血、としているところですね。演じる役者が純アジア人じゃなかったための策だったのかもしれませんが。。。

私感ですがアイルランドとパキスタンとの混血とすることで、なんというか嫌悪感を増長させている演出にもなっている気がします。

イギリスとアイルランドの関係は、簡単に説明ができるものではないですが、私はアイルランドに留学していたこともあり自分が見聞きしたことも含め、今回はアイルランド側から少し書いてみたいと思います。

イギリスの植民地だったアイルランド

アイルランドは、1801年から1922年までイギリス“グレートブリテン及びアイルランド連合王国”の一つでした。御察しの通り今はアイルランドは独立したので、グレートブリテン及びアイルランド連合王国がイギリスの正式名称ですね。

しかしその実態は連合王国と呼べるものではなく、イギリスによるアイルランドの征服、植民地化でした。

宗教的な大きな違い

イギリスとアイルランドは文化的に似ているのではないか、と思うかもしれませんが、宗教的に大きな違いがあります。アイルランドはカトリック、イギリスはプロテスタントだということです。イギリスは、アイルランドで宗教改革を行い、カトリック教徒は迫害されました。

パディというアイルランド人を指す差別呼称は、元はパトリックという名前の愛称です。このパトリックという名は、アイルランドにキリスト教を広めた聖パトリックからとられたもの。そんな聖人の名前からとり、アイルランド人は子供の名前としてつけていました。

イギリスから独立した後は、誰の邪魔をされることもなく、多くの人がカトリックを信仰しています。これも私感ですが、アイルランド人は敬虔なキリスト教徒が多いと思いました。

私の住んでいた家の近くにある教会は、日曜日には多くの人がやってきていました。道に車が溢れ、通れなくなるほど!住宅街なので問題なかったですが。また日曜日はお酒の販売はなし、また女性の堕胎はいかなる場合も禁止(それが強姦であろうとも)など、その文化や考え方にその片鱗を見ることもできます。

アイルランド人のイギリス嫌悪感情

またイギリスの植民地時代には、ジャガイモ飢饉(主食であるジャガイモの疫病が流行し、食料不足になった。わずかな収穫物もアイルランド人は口にすることはできず、イギリス本国へ送られた)で多くのアイルランド人が命を落としたこと、またアイルランド語という自国言語が全て英語に代わられたこと、様々なことから現代でもアイルランド人のイギリスに対する嫌悪感情は残っています。

街中でアメリカ合衆国の国旗が掲げられているお店は度々目にしましたが(アメリカ大陸へ渡ったアイルランド人が多くいるため、アイルランドにルーツをもつアメリカ人も多く、アイルランドとアメリカは関係が濃い)、イギリスの国旗を目にしたことはありません。

私が通っていた語学学校では、よくイギリス人の発音をバカにする先生がいました。ホストファミリーの60代夫婦も、よくニュースを見ながらイギリスを悪く言っていました。

もちろん全員が嫌悪むき出し、敵対むき出しというわけではないですが、そのような感情を持つ人もまだ多くいる、ということです。

「Curry & Chips」を観る

この作品が放映されると、多くの苦情が寄せられ、6エピソードで打ち切りとなりました。製作者たちは「これはイギリスにいる人種差別者(レイシスト)への揶揄だった」と答えたそうです。

そうでしょうか。人種差別者への揶揄というよりは、イギリス自国民以外の人を揶揄する内容であったと私は思いました。ただアジア人はこういう見方をされていた、イギリス人の中にはこういう見方をする者もいた、ということを知れるという意味では貴重な作品かもしれません。

もし気になる方は、【Curry and Chips tv series】や【Curry and Chips 1969】などと検索してみてください。

ちなみに【Curry and Chips】で検索すると、タイトルの通り、イギリス料理であるフィッシュアンドチップスをもじった(?)料理=カレーとチップスの料理が出てきてしまうので注意です!(笑)

 

今回は、イギリスにおける移民/アイルランドというキーワードを軸に書きましたが、南アジア系移民に対する差別について別の記事で書きましたので、よければご覧ください。

★80年代のイギリスで起きた南アジア系移民差別“パキ・バッシング”について書きました。

 

あすゆき

最後までお読みいただき、ありがとうございました🧡

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