海外に住むということ

朝起きて、いつものように家族のグループラインに「おはよう」と送って他愛もないスタンプのやりとりをした。お昼前に「じいじ死んじゃった」とラインが入った。

今日おじいちゃんが亡くなった。そのラインが届いた時、母たちはもうおじいちゃんのもとにいた。家からは数時間かかるところに住んでいるけれど。すぐに電話して話したけど、母はおそらく動揺していて、いつ亡くなったことが分かって、どんなふうに亡くなったのかは聞かされず、私は今も何も分かっていない。ただ「あなたはそこにいて」と母に言われた。

もう90にもなるおじいちゃんは、長生きしたね。人はいつか亡くなるものだって、そう思ってる。新しい旅に、旅立ったんだなってそう思う。そう、頭では分かっている。いつかおじいちゃんやおばあちゃんは、亡くなるんだろう、私よりも先に旅立つんだろう、もちろんそんなことは分かってたけど。

それでも、まだまだ彼らは元気で、お別れはまだまだ5年、10年先のことで、また来年帰ったら会える、なんて当たり前のことのように思ってた。

何が悲しいって、お別れに行けないこと。うん、いつか人は亡くなるよね、でもふつー日本に住んでたら最後のお別れくらいはできる。でも、私は行けない。

母は「冷たかったよ」と言った。冷たくてもいいから、会いたいし触れたい。この数日のあいだに、亡骸はなくなってしまう。消えてしまう。灰になって、私はもう顔も見ることができない。

そうか、海外に住むってこういうことか、とようやく分かった。日本では、それぞれの家庭で自立するのが割とふつうだし、両親が年をとっても同居することは多くない。両親は、田舎に住んだり、施設に住んだり。四六時中一緒に生活しないことも多い。

それでも、亡くなった時、お別れのために駆けつけるのはふつうのことだ。北海道に住んでいようと、沖縄に住んでいようと、遠くに住んでいようと、仕事が忙しかろうと、調整して駆けつけることができる。

でも海外じゃそれは簡単なことじゃないんだよね。もちろん今みたいな情勢じゃなければ、すぐに航空券を取って明日や明後日のフライトで帰ることもできたかもしれない。でも今はそうじゃない。

それを知ってて、選んで来たのは自分だ。

「こんなときにインドに行くなんて危ない」「海外にひとりで住むなんて」応援してくれる人もたくさんいたけど、こういうふうに言う人もいた。「何を大げさな」なんて思っている自分もいたし、「帰りたい時には帰れるし」とフットワーク軽くいようと思っている自分もいたけど、今、海外に住むっていうことが自分の国と大きな壁があるんだとやっと痛感した。

おじいちゃんが亡くなったこともだけど、何より最後のお別れもできないことが辛い。母のそばにいることもできないことが辛い。

おじいちゃんは田舎に住んでいて、都会に住んでいる私たち家族は、コロナが流行する前は年に3〜4回は会いに行っていた。でもコロナが流行した2020年からはその回数も減らすことになった。インドに来る前の3月に、会いに行った。本当に行ってよかったと思う。

でも最後に会いに行けなくてごめんなさい。最初の孫で、たくさんたくさん可愛がってもらったのに、ごめんなさい。結婚もひ孫も見せてあげられなくてごめんなさい。

そうしてまで、自分でここにくると選んだこと。その選択に責任を持つこと。やると決めたことを、やること。私が元気でいること。心配をかけないこと。今ここにいるという一日一日を無駄にしないこと。自分の健康のために、誰かの命のために、この先もリスクを冒すことはしないこと(コロナに対して)。

今は一歩も外に出れないけど、それでもできることがあるはずだ。ちゃんと自分の選択に責任を持って、生きる。

じいじ安らかに何も心配しないで休んでください。こんなところに書いて、ごめん。でもどうしても書かないと進めないと思ったから、おいしい野菜たくさん作ってくれたね、しいたけ一緒に採りに行ったよね、めちゃくちゃ濃いお酒のお湯割が好きなんだよね、あと甘いおかしも、今度行く時たくさん買って行くね。

 

2 COMMENTS

しなもん

同じ海外在住者として、このコロナ禍で同じ経験をして、同じ思いを味わっています。 
人生の半分以上を海外で過ごしていますが、ここまで日本との壁を実感したことはありませんでした。
おっしゃる通り、今は自分が住む異国の街で、日本にいる人達に心配をかけないように、健康に留意してやれることをやるのみですね。

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あすゆき

しなもんさん、コメントありがとうございます。
私はまだ始まったばかりのひよっ子ですが、長く長く海外生活されているしなもんさんがそうおっしゃるのであれば、本当に遠くなってしまったのですね。
また「海外生活しているから」という理由だけでなく、
国内に住んでいても同じようにコロナの影響で駆けつけることができなかったり、
またコロナに罹患された方は一目も会うことができなかったり、
多くの方が同じような悲しみを味わっているのだと思うと、本当にいたたまれません。

一日でも早く平和な世界が戻って来るように、できる限りのことをして生活していこうと思います。
ありがとうございました。どうぞ、しなもんさんもご自愛くださいませ。

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